okadamktの日記

That's what we call a tactical retreat.

書籍

第2中世への予感:熊代亨『融解するオタク・サブカル・ヤンキー ファスト風土適応論』

本書のタイトルは「融解するオタク・サブカル・ヤンキー」だが、本書の主題はそこではない。副題の「ファスト風土適応論」こそが本書のメインディッシュだ。 もちろん、かつて「オタク」「サブカル」「ヤンキー」と呼称された文化とその後の変遷、そしてそれ…

問いをより深めるために:ウォーレン・バーガー『Q思考 ― シンプルな問いで本質をつかむ思考法』

「アイディアはつねに「疑問」から生まれる」。では、その問う力について真剣に考えるとはどういうことなのか。本書は著者自身のそんな問いから生まれたものといってもよいだろう。問うという行為の必要性、価値、よい問いの例、問いを妨げるもの、よい問い…

仮説の振れ幅を再考させてくれる:エベネザー・ハワード『明日の田園都市』(新訳)

エベネザー・ハワードによって1898年に提唱され、1992年に「明日の田園都市」("GARDEN CITIES of To-Morrow")と改題されて出版された本書は「近代都市計画論」の古典として位置づけられている。本書は、"田園都市"("GARDEN CITIES")という牧歌的ともいえる…

言葉と鳥と島への愛に満ちた啓蒙書:川上和人 『そもそも島に進化あり』

本書は、海に囲まれた「島」という存在が生物の進化にどのような意味をもつのかを考察しており、一般的には科学啓蒙書のジャンルに属している。 著者は、「ここに海終わり、島始まる」と、読者を島嶼という環境のもつ生物学的な魅力へと誘う。島嶼という字が…

「パワー」(Powers)

ル=グウィン、西のはての年代記 Ⅲ「パワー」(Powers)。 都市国家群のひとつエトラの少年奴隷ガヴィアには未来に起こることがらを「ヴィジョン」として見る力がある。しかしその彼の力が4つの章に分かれて語られるこの物語の主軸になることはない。それが…

静かな雪の夜のように

ル=グウィン「ヴォイス」の一節が頭を離れない。長らくオルド人の武力的な圧政下で虐げられてきた都市アンサルが自由への一歩を踏み出しつつある瞬間の一節だ。 応接室にもどると、議会や選挙や法による統治と言った話題よりも、襲撃だのオルド人虐殺だのと…

ヴォイス

ル=グウィン、西のはての年代記 II、「ヴォイス」(Voices)。西のはての南部に位置する海港都市アンサルに暮らすメマー・ガルヴァという少女の物語。そしてそれは「問い」と「答え」の意味に関する物語でもある。 「ヴォイス」の中で問いと答えの関係はか…

ちはやぶる

「恋す蝶」という蝶はどんな蝶なのか、「ゆらの塔」というふしぎな塔はどこにあるのか 子どもの頃に感じた百人一首の思い出を歌人佐々木幸綱はそんな風に語っている(*1)。落語の「千早振る」(*2)に思わず共感してしまうのは、誰もが同じような気持ちになった…

語義の表現形

新明解国語辞典(第4版)で「さびしい」の語義と用例を読んでいて気がついたことがある。 さびしい【寂しい】(形)①自分と心の通いあうものが無くて、満足出来ない状態だ。 「-生活」②社会から隔絶されたような状態で、心細くなる感じだ。 「-山道」 ③有…

予感

「どうかご自愛ください」 「お体を大切にしてくださいね」と同じ意味だが優しい言葉だ。相手の周囲に対する細やかな気持ちをおもんぱかり、寄り添う心遣い。「自愛」という字義の通り、本来、自分を大切にすることはとても重要なことだし、丁寧な生き方だと…

物語について

ル=グウィン「ギフト」(Gifts )の一節。 その物語はぼくの中に生きている。それがぼくの知る限り、死を出し抜く一番いい方法だ。死は自分が物語を終わらせることができると思っている。物語が自分―つまり死―の中で終わっても、物語が死とともに終わるので…

きっかけ

たぶん、小学校の3年生ぐらいまで、私は本を読むことがない子どもだった。仲のよかったN君はドリトル先生の全巻を読んでいたりしたけれど、私はそれをどうとも思っていなかったし、すごいなとも思っていなかった。単純に、本を読むことに興味がなかった。 実…

答えのない質問

レナード・バーンスタインの「答えのない質問」。副題は「1973年ハーヴァード大学詩学講座」。高校生の頃に本の方を古本屋で買った。それなりの値段がしていたような気がする。少し背伸びをしながらわくわくして読んだ。 目次は、1.音楽的音韻論、2.音楽的統…

近所のブックオフで

近所のブックオフで、岩波ジュニア新書「詩のこころを読む」を100円で買った。茨木のり子著。 冒頭、「はじめに」として、茨木のり子はこう書いている。 いい詩には、ひとの心を解き放ってくれる力があります。いい詩はまt、生きとし生けるものへの、いとお…

心のエミュレータを起動せよ: ボブ・シュワルツ 『ダイエットしないで痩せる方法』

本書は、副題「痩せている人はなぜやせているのか?」が象徴するように、ダイエットという「行為」ではなく、痩せている人の「心の状態」に注目している。 しかし、それはダイエットに関する精神論ではない。もし読者が、これまで何度となくダイエットという…

希望の意味のヒント: 重松清 『きみの友だち』

「みんな言ってるよ」 そんなセリフはこの小説には出てこない。しかし「みんな」ということばの痛みや怖れを「きみ」である「私」があのときどう感じたのかを、この小説はまざまざと思い出させてくれる。だから前半部分で、もしかすると「きみ」は読むのが辛…

大事なのは想像力です。: 重松清 『ゼツメツ少年』

「センセイ、僕たちを助けてください」。そんな手紙をセンセイがもらったところから小説は始まる。手紙はタケシという少年からのものだ。少年は「僕たちはゼツメツしてしまいます」という。そんなゼツメツしてしまうかもしれない2人の少年と1人の少女の小さ…

一人ひとりの「認知症」がある:佐藤雅彦、『認知症の私からあなたへ』

電話口で佐藤雅彦さんはこう言った。「本届いた? この本、普段あまり本を読まない人にも読んでほしいと思ってるんだよね。」 佐藤さんは51歳のときにアルツハイマー病型認知症と診断された。以来、認知症とともに暮らしている。本というのはその佐藤さんが…

シンプルに、伝えることに特化した書:櫻田潤、『ドラッカー・メソッド 自信をもって生きる方法』

ドラッカーが述べたことを、著者ならではの視点で整理し、ビジュアルに伝える「スライドブックシリーズ」の第一弾。 『ドラッカー著書を読むと、気になる言葉との出会いがたくさんあり、いつの間にか付箋やアンダーラインだらけになってしまいます。』と著者…

気持ちがゆっくりと明るくなっていく: 谷川俊太郎 『谷川俊太郎質問箱』

ほぼ日刊イトイ新聞上の連載「谷川俊太郎質問箱」から派生した本書は、寄せられた質問に著者が答えていく形式で書かれている。質問は全部で64個。ほぼ日で寄せられた読者からの質問に、本書では著者の友人からの質問も加えられている。 回答は、「おもわずは…

ひとつの知恵として: 加藤俊徳 『脳番地を鍛える―潜在能力を引き出すトレーニング』

脳の「部位」と「機能」を同時に表現する脳番地について説明している本書では、脳番地を鍛えることで潜在能力を引き出すトレーニングが可能だとしている。残念ながら、脳番地自体の説明も脳を鍛えることについての因果関係もその方法論も、私にはいまひとつ…

変曲点のスナップショット: 藻谷浩介/NHK広島取材班 『里山資本主義』

里山的な循環経済を原理とする考え方を、さまざまな事例を紹介しながら描き出している。本書で描かれている里山に象徴される循環的経済への転換は、20世紀的価値感からの決別に向けた動きとして多くの人々の共感を今後も得ていくだろう。時代は変曲点にあり…

京都の街を舞台とする青春冒険綺談: 森見登美彦 『有頂天家族』

京都の街を舞台にした冒険綺談。狸と天狗と人とが三つ巴となり、狸的であること、天狗的であること、人的であるこという観念自体を愉快なギミックとしながら、すべての価値観が面白可笑しいかどうかに集約される。変幻自在、天空闊歩、哀しみと屈折と愛情に…

コンテンツに関わる考察と再定義: 川上量生 『コンテンツの秘密』

コンテンツとは何かを記述するにあたり、適切な「問い」と「定義」を設定することは容易ではない。本書で著者は、ジブリと関わることで深めたコンテンツにまつわる「問い」と「定義」の再構築を行っている。 「問い」は大きく4つから構成される。1) コンテン…

生産的に書くことは誰にでも可能: ポール.J・シルヴィア 『できる研究者の論文生産術』

本書の副題は、どうすれば「たくさん」書けるのか。 本書は、研究者に限らず、書くことを日常的に仕事としている人すべてのための本だ。小説家や詩人になるための本ではない。あくまでも仕事として書くことを求められている人のための本だ。そして書くことが…

地域からの政治を考えるきっかけに: 小田りえ子 『ここが変だよ地方議員』

普通の企業人から川崎の市議会議員に転身した著者は、転身組だからこその違和感をブログで4コマ漫画として描いてきた。本書はそのブログを整理して書籍化したものである。地方議会や地方行政を告発するためのものではなく、ごく普通の人からの目線で、「もっ…

人に対する共感に満ちた洞察: 平田オリザ 『わかりあえないことから』

「コミュニケーションは難しいものだ」と感じている人は世の中には多い。しかし「わかりあえないことから出発する」という立場で、コミュニケーションについて丁寧に考えを深めていく人は少ない。 本書は、「わかりあうこと」を重視する風潮へのアンチテーゼ…

明るい勇気を与えてくれる: 山田スイッチ 『しあわせスイッチ』

「明るい青春小説」というジャンルがあるならば、この本はその筆頭だろう。描かれている「青春」は、どこか微笑ましく、そして確実に空回りしている。でも、その空回りが、なんだか五月の空の鯉のぼり、竿の先の風車のように元気にからからと回り、わけのわ…

隣接する異なる世界の物語: ショーン・タン 『アライバル』

一人の男の旅の物語。物語は言葉では語られていない。物語はすべて、イラストというカットの積み重ねで描かれている。愛情、不安、別れ、困惑、出会い、希望。登場人物たちの繊細な心の揺れ動きが、文字が意味を失った世界で饒舌に語られている。 モノトーン…

作業科学に魅せられる書: 吉川ひろみ 『「作業」って何だろう―作業科学入門』

本書は、作業科学という新しい分野の魅力的な入門書である。ページ数はあとがきを含めて105ページと短い。だからこそ、読者は細かな隘路に陥ることなく、読み通すことができ、「作業とは何か」について考えることができる。 作業科学は、作業という現象につ…

主観の麻痺について: 遠藤周作 『海と毒薬』

戦争末期におきた一つの事件を題材にした中編。物語は、複数の人物の一人称による語りと三人称による記述とで構成される。視点の変化によって事件の「風景」が際立つ形式といえる。 冒頭は遠景から始まる。 八月、ひどく暑いさかりに、この西松原住宅に引越…

日記的であってない不思議な本: ちきりん 『「Chikirinの日記」の育て方』

著者が、自身のブログとその運営について、これまでどのように考えてきたかを記した本。日々数万人の読者が訪れるブログの運営記録というよりも、ブログやブログを取り巻く状況について、著者の価値観と姿勢とが記述されている。読みやすい文章と一貫性のあ…

エッセイを読むように禅の入り口に触れる: 星覚 『坐ればわかる 大安心の禅入門』

雲水としてベルリンを拠点に活動する著者による禅の入門書。著者の経験や実感をベースに書かれており、エッセイを読むように、禅の入り口に触れることができる。「禅とは何か?」という大上段なアプローチではなく、若い禅宗の僧侶の生き方そのものが、都会…

言葉の変化に対する驚き: 玄侑宗久 『さすらいの仏教語』

日常語の中から、88個の仏教由来の言葉について、元々の意味を踏まえながら書かれたエッセイ集。中央公論の8年にわたる連載として書かれたものなので、文章は肩肘をはらず、読みやすい。そしてユーモアに溢れている。 本書は2つの大きな驚きを与えてくれる。…

ケアの価値感にふれる: 鈴木みずえ監修 『認知症の介護に役立つハンドセラピー』

肌と肌とのふれあいを大切にするスウェーデン生まれの「タクティール」を、ハンドセラピーとして実際にすぐに使えるように、具体的に丁寧に解説している。 本書は、まず認知症に関する基礎知識の説明から始まり、触れることの意味、タクティールケアを具体的…

新しいリテラシー: 櫻田潤 『ビジュアルで差がつく「響く」プレゼン資料作成術』

「ビジュアルシンキングを用いたプレゼンテーション」は、普通の社会人が身につけておく新しいリテラシーだ。本書はその基本を身につける方法をわかりやすく伝えている。 ビジュアル表現を使いながら情報を伝えるのには、何が必要なのか? そのための具体的…

「個人」から「分人」へ: 平野啓一郎 『私とは何か』

本書は「私とは何か」という問いへのひとつの答えである。 著者は、分けられない首尾一貫した「本当の自分」というモデルは不完全だという。これまでの「個人」(individual)という概念を、大雑把で、硬直的で、実感から乖離しているという。そして、「人と…

イノベーションにおける物語の書: 木川眞 『未来の市場を創り出す』

ソニーを含めた「もの作り日本」の凋落とは対照的に、小倉昌男氏が1976年に始めた小口貨物の特急宅配システム「宅急便」は、人々の生活の利便性を劇的に変化させた。本書は、2005年に銀行業界からヤマト運輸に転じ、2011年にヤマトホールディングス社長に就任…

愛に満ちた書評論: 豊崎由美 『ニッポンの書評』

「淀長(淀川長治)さんみたいになりたい」。 著者は、巻末に掲載された大澤聡との対談の中で、書評のひとつの理想の姿としてそう語る。 著者にとって、書評は愛と尊敬なのだ。 だからこそ、著者は書評の意味について考え、そして時に辛口にもなる。読者はそ…

誰にでも必要な、仕事に役立つリテラシー: 櫻田潤 『たのしいインフォグラフィック入門』

インフォグラフィックの魅力を知り、その活用の一歩を踏み出してもらいたいと著者はいう。著者はインフォグラフィックを、『これからの時代の新しい読み書きそろばん』、『誰にでも必要とされる新しいタイプのリテラシー』と捉えている。 その言葉通り、本書…

心が柔軟になる読むクスリ: 釈徹宗 『ゼロからの宗教の授業』

読者それぞれが、自分にとっての宗教はどう位置づけられるのか、やんわりと考えるきっかけになるような本。著者は、宗教的感性について、少しエッセイ的に、少し学問的に捉えながら、宗教というものを対象化していく。 「宗教とは○○であ~る」と肩肘をはらず、…

郷愁ではない創造すべき未来が描かれている: 小松左京/谷甲州 『日本沈没 第二部』

日本は海の中に沈んでしまった。生き残った日本人も国土を失い、世界中に散った。物語は25年後の日本人たちを描いている。 昭和48年に出版された「日本沈没」は、「第一部 完」という言葉で終わっている。当時、誰もが「その後の日本人は一体どうなるのだろう」…

静けさとは無ではない: 森博嗣 『喜嶋先生の静かな世界』

喜嶋先生は静かな世界に生きている。 研究というものに携わったことがあるならば、誰しも一度は、喜嶋先生のように生きたいと願ったはずだ。この本はそんな人のためにある。喜嶋先生は研究者のイデアだ。 静けさとは無ではない。静かであることと豊かである…

風神雷神のように: 曾野綾子 『中年以降』

上手いエッセイは人を魅了する。中年以降の季節とはそんなエッセイに似ている。 『「奥さん、サハラに行くんだって?」と当時他人に言われる度に、夫は、「砂漠に行くと神が見えるんだそうですよ。しかし砂漠に行かないと神が見えないというのは、不自由なこ…

フレームを外して世界をみるために: 山岡道男/淺野忠克 『行動経済学の教室』

副題に「世界一やさしい」「ガブッ!とわかる」とある言葉の通り、行動経済学についてわかりやすく書かれた入門書。高校生の子どもにも勧めたくなる。 まず、書籍としての導入が上手い。 ”はじめに”で、「なぜあなたはお金を貯められないのか?」「お金を貯…

脳化社会は改めて振り返る価値がある: 養老孟司 『バカの壁』

本書は、2003年のベストセラーであり、その強烈なタイトルはその年の流行語大賞にもなった。 そして、タイトルで誤解されてしまう本というものは存在する。 たとえば、ニコラス・カーの「ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること」。本当…

月日は流れ、わたしは残る、片雲の風に誘われる: 滝田誠一郎 『長靴を履いた開高健』

「私の釣魚大全」「フィッシュ・オン」「オーパ」など、開高健が記した釣りにまつわる紀行と、その紀行に関わった人々への取材を通し、人間・開高健を生き生きと再構成して描き出した優れた評伝。 たとえ釣りにはまったく興味が無くても、この評伝を読み進め…

自由であることの希求: 志賀浩二 『数学という学問 III: 概念を探る』

初期集合論を確立したカントル。カントルはなぜ「数学は自由である」と考えたのか。カントルの数学と、数学における概念との関係に焦点をあてながら、その意味が本書では記述されている。 著者は問う。あなたは樹の幹を描くときに輪郭から描くか? それは本…

読者もまた呪いの内に取り込まれる: 内田樹/釈徹宗 『現代霊性論』

現代における霊性とは? 「内田さんがつけたタイトルは呪いだよね、それに縛られてしまうから」と釈氏。呪いをかけた側とかけられた側がそれぞれ自由に、タイトルを軸に現代を語っている。 二人の立場はもちろん違う。現代や霊性に関する観点も思想も踏み込む…

自分の声に耳を傾けたくなる優しい本: ジュリア・キャメロン 『あなたも作家になろう―書くことは、心の声に耳を澄ませることだから』

日本語の副題は「書くことは、心の声に耳を澄ませることだから」。「作家になるため」の本ではなく、自分という「作家である」であるための本。 英文のタイトルは”The Right To Write”。”書く権利”あるいは”書くことは権利”と直訳すればいいのだろうか。 著…