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okadamktの日記

That's what we call a tactical retreat.

空中に放り投げられたボール: 夏目漱石 『永日小品』

短編で構成された夏目漱石の小品。日常の様々な風景が描かれている。 空中に放り投げたボールが、そのまま落ちずに止まってしまったような奇妙な違和感に見舞われる。日常であるように見えて、それは日常風でしかない。 文章を使っての実験は可能だ。けれど…

大人の態度としての美しさ: 伊丹敬之 『創造的論文の書き方』

社会学系の大学院や学部の学生を対象に書かれた論文の書き方の心得。 社会学系の論文を書くことに関し、前半はゼミの卒業生との対話として、後半はそれを整理した概論として、「研究の仕方」、「文章の書き方」としてまとめている。 好みもあるだろうが、後半の…

機能として割り切る客体との距離感: 架神恭介/辰巳一世 『完全教祖マニュアル』

教祖になるためのマニュアルという体裁をとった文明批評書。 なにかに対して展開した批評が評価を受けるためには、客観性が必要となる。客観性を保つためには、対象となるものやことに対して、複数の視点と引いた視点が必要となる。 世界宗教の基本要素は、…

心地よい驚き: 鈴木敏夫 『風に吹かれて』

渋谷陽一による、スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫のインタビュアー。鈴木敏夫と鈴木敏夫を取り巻く人々が生き生きと描かれている。 「インタビューという行為はどこか聞き手がそらぞらしい」という先入観を気持ちよく破壊してくれる。著者は鈴木敏…

揺れ動く気持ちが丁寧に描かれている: ジャネット・あかね シャボット 『自ら死を選ぶ権利』

自ら死を選ぶ権利―オランダ安楽死のすべて 副題は「オランダ安楽死のすべて」。日本のテレビ局の安楽死取材をコーディネートしたことをきっかけに、取材に同席した著者がオランダにおける安楽死の議論をドキュメンタリータッチで伝えている。 本書がとても丁…

なんでもあってなんでもないものへの挑戦: 辛酸なめ子 『辛酸なめ子の現代社会学』

純愛、スローライフ、KY、ハンカチ王子、オーラなど、当時、世の中に流布していた現象が、著者独自の視点からエッセイと漫画で描かれている。 別に女子学院高校に対して言われなき偏見があるわけではないが、もちろんないわけでもない。「あ、こいつも女子学…

再帰的な蓄積と奇妙な発振現象: 辛酸なめ子 『女子校育ち』

女子学院出身の著者による、女子校育ちという現象に関する観察と分析。 女子校育ちの罪と罰について語った本ではない。しかし、人は生まれ育った環境から自由になることはできない。女子校育ちであることの、よいこともそうでないことも含め今の自分がある。…

優しい眼差し: 伊藤比呂美 『読み解き「般若心経」』

同時代の作家で一人あげるとしたら、きっと私は伊藤比呂美をあげる。同時代とは不思議な言葉だ。作品だけを客観的に受け止めることはできず、生きた時代というものを暗黙のうちに共有してしまっているのだから。 本章の最初の章のタイトルは、「読み解き「懺…

刺激的な仮説: 矢作弘 『都市縮小」の時代』

著者は"Smart Decline"(賢く衰退する)をテーマに、「縮小の対価として初めて得られる豊かさがある」のではないかと訴える。20世紀という成長の時代、あるいは「人口増加熱望症候群」の時代からの切り返しについて、アメリカ・ヨーロッパ、そして日本の実例…

同世代に生きる: 山田詠美 『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』

「家族」「健康」「友人」「趣味」「お金」「役割」。じゃんけんで負けるたびに紙に書かれたいずれかを破っていく喪失体験ゲーム。そしてその後に「本当の喪失は選べないのだ」と告げられる。 山田詠美、「明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち」。 …

美しい日本『語』の世界: 江國香織 『竹取物語』

たとえば、伊勢物語の芥川。恋い焦がれ、夜露を「あれは何?」と問うような彼女が、あっという間もなく鬼に食われてしまう物語。 業と無常の二項対立からの脱却を、原罪という概念を介さずに描くためには、儚さが不可欠なのである。 「竹取物語」に材をとっ…

読書論についての考察。しかし真の犯人は著者: ピエール・バイヤール 『読んでいない本について堂々と語る方法』

ピエール・バイヤール「読んでいない本について堂々と語る方法」。その本について語るにはその本は読んでいない方がよい。本を読み、語ることについての意味の考察。 しばらく前に「アブダクション―仮説と発見の論理」という本を友人の原田くんに薦められた…

わかるということを真摯に問う:熊本徹夫、『精神科医になる-患者を"わかる"ということ』

"不思議"なタイトルの本だ。まえがきの一部にこうある。 哲学者の中村雄二郎はその著書『臨床の知とは何か』(岩波新書1992)の中で、近代科学の三つの原理を<普遍性>と<論理性>と<客観性>であるとし、それらが無視し排除した<現実>の側面を捉えなおす重要な原…

大坂屋花鳥

ある日の土曜日、京成小岩、むかし家今松師匠、「大坂屋花鳥」。 主な登場人物は、吉原の花魁、大坂屋花鳥。自らの鬱積と重ね合わせながら花鳥に溺れ、辻斬りで200両を奪い、そして花鳥が吉原に火をかけて逃がしてやる無役の旗本、梅津長門。八丈島に島流し…

常識の働きをコミュニケーション・プロセスとして捉える良書: 遠山雄志 『組織を変える常識』

「おかだ、少しはTPOってものも考えないとな」。すみません。常識が必要ってことですよね。で、常識って何? 『常識とは、"かなり共通の対人経験"を有する人々が客観的だと同意する事柄である。』(遠山雄志『組織を変える常識』) わかりやすい! しかも「…

夏への扉

SF(Science Fiction, 空想科学小説)は、子供の頃から好きだった。高校の東洋史の時間はすべて早川書房「世界SF全集」のための時間だった。今、振り返って考えれば、東洋史や生物や地学も面白かったろうに、5・6時限目が生物や地学のときには勝手に自主休講…

タイトルの美しさ

子供の頃は、長いタイトルの書名や章の名前が好きではなかった。内容を簡潔に表現していないような気がしたのだ。 それがいつの頃からだろう・・・。長い表題というものが嫌いでなくなった。むしろ、長い表題に、『本当には語りつくせない物語が内包されてい…