再帰的な蓄積と奇妙な発振現象: 辛酸なめ子 『女子校育ち』
女子学院出身の著者による、女子校育ちという現象に関する観察と分析。
女子校育ちの罪と罰について語った本ではない。しかし、人は生まれ育った環境から自由になることはできない。女子校育ちであることの、よいこともそうでないことも含め今の自分がある。そんな風には著者は語らない。しかし、本書には、確実になんらかの呪いと祝福が隠されている。
本書は、著者の観察と分析、場合によってはアンケートやインタビュー、座談会の記録などで構成されている。アンケート・インタビュー・座談会は、本当に本物なのか?
アンケートやインタビュー、座談会の記録が本物でないとする理由はない。しかし、もし、これらを著者による創作と思って読むとすればどうだろう。
女子校育ちが女子校育ちについて語るということは、視点の微妙なずれが再帰的に蓄積するということなのだ。奇妙な発振現象がそこにある。
エピメニデスはクレタの人で、次のような金言を残している。「クレタ人はみなうそつきである」と。女子校育ちにも同様の構造がある。
もちろん、男子校出身者としては、なるほどという一冊である。