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okadamktの日記

That's what we call a tactical retreat.

アンドレアス・グルスキー展

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2年ほど前、amanaimages incというフォトストックを販売する会社にお勤めのYさんと話をする機会があり、そのときにアマナが発行する写真雑誌「IMA」SUMMER 2013年5月号vol.4をいただいた。とても丁寧に作られた写真雑誌で、作家ごとに、つまり作品のタイプによって紙質が変えてある、図版のようにゆっくりと読んだり眺めたりしたくなる雑誌だった。

その「IMA vol. 4」 の巻頭ストーリーがアンドレアス・グルスキーだった。そして採録されていた「カミオカンデ」というタイトルの写真がとても美しかった。確かにカミオカンデ光電子増倍管が整然と並ぶある種の美しさがある場所だ。けれどもグルスキーの写真はただ機械的な世界ではないものを予感させてくれた。ボートに乗る二人の人物は,時を越えて旅をしているかのようにも見えた。

しばらくして、国立新美術館アンドレアス・グルスキー展が開かれていることを知った.縦2m30cm,横3m70cmの「カミオカンデ」という写真を実際に見てみたいなと思い、出かけた。ひどく混んでいるという訳でもなく、それでもそれなりに人は入っていた。

正直、どきどきした。「フランクフルト」「F1 ピットストップ IV」「香港,上海銀行」の陰影。「ライン川 II」「スキポール空港」の明るさの具合。「ガスレンジ」「ルール渓谷」「バーレーン I」「マドンナ I」「無題 X」の構成,「パリ,モンパルナス」「無題 V」「無題 XIII」「シカゴ証券取引所 III」の色使い。

そして、それらにも増して,「カミオカンデ」と「バンコク IV」から強い印象を受けた。

カミオカンデ」と名付けられた写真はまるで神殿を写したようだ。遠い星の彼方からの微かな声を聴くための神殿。わずかに4×3の構成を感じさせる光電子増倍管たちが、中央上部に、すなわち星に近づくにしたがって明るさを増している。暗い水面に浮かんだ2艘のボートの二人は白いシルクハットを被っているかのように見える。この物理的空間の本来の意味が単なる装置ではないと暗示しているかのようだ。雑誌を見て最初に感じたように、2人はこのボートを使い時を越えて旅をしているかのようだった。しかも写真に近づいてみると、二人が着ているのはこの手の装置の中で普通に用いられる作業着なのだ。

ダン・シモンズハイペリオン。もし造形として描けばこんな世界なんじゃないか。そんなことを思った。20世紀という時代は、太陽の塔によって象徴されるのではなく、この「カミオカンデ」によって象徴されるのではないか、そんな風にも思えた.

一方、「バンコク IV」の青みと緑みを帯びた水色は初音ミクの髪の色と同じ色だ。その水色の部分に様々な抽象的な幾何学模様が浮かんでいる。何を映しているいるのかと追おうとすればするほどその形は歪んでしまう。そんな現実味のない世界がそこにあった。その青みと緑みを帯びた部分から目が離せない。確かにそこには何かが映されているはずなのに届かない世界がその水色にはあった。

久しぶりに、昇華できないものに対峙し、心が揺れた。