okadamktの日記

That's what we call a tactical retreat.

"CSI"(Creating Shared Issue:共有できる課題の創出もしくは探索)

私は2014年3月に発表された「CSRとCSVに関する原則」の趣旨に賛成する。そこではCSRCSVとの関係を「CSRとCSVに関する原則」として明確に述べている。

1. CSRは企業のあらゆる事業活動において不可欠です。
2. CSVCSRの代替とはなりません。
3. CSVCSRを前提として進められるべきです。
4. CSVが創り出そうとする「社会的価値」の検証と評価が必要です。

CSRからCSVへ」に対する警鐘」にも記されているように、CSRは「行動規範」であり、CSVは「企業行動」なのだ。私はその考え方に賛同する。

その上で、私にはひとつの疑問が生まれる。CSV(Creating Shared Value)という企業行動は、本当に企業が協働に向けて行う行動として実施しやすいのか?という疑問だ。そもそも企業や組織が何かの行動を実施しようという内発的動機・インテンションは企業・組織で個別だからだ。

少なくとも私は、CSRの原則に基づく企業行動として実施しやすいのは"CSV"よりも"CSI"(Creating Shared Issue:共有できる課題の創出)だと思っている。共有できる課題の創出であれば、CSRに基づく行動規範とそれぞれの企業が目指すものに基づき行動を起こせる、行動を促す合理性が感じられる。そして、そのような真に価値のあるIssueを粘り強く探索すること、それこそが大切だと思う。

たとえば、インドで実施されてきたプロジェクト・シャクティは、目的の異なる複数のステークホルダが、共有できる課題を発見し、協働が非常にうまく機能した例といえる。

このプロジェクトでは、隣村との交通手段も十分に確保されない地方の村々の女性を支援し,生活力の向上を図ることを共有課題とした。この課題に対して、ステークホルダであるユニリーバ、インド政府、インドの銀行の意図は大きく異なる。ユニリーバは自社商品の販売網を地方へと浸透させることに課題を持ち、インド政府は人々の持続可能な生活力向上が単純な資金援助では生まれないことに悩んでいた。銀行は誰にどのような形で資金を提供すればよいかがわからずにいた。

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プロジェクト・シャクティの成功要因は、インドの地方に住む女性への支援という社会的課題を、目的や価値の源泉の異なるセクタや組織をつなぐバウンダリー・オブジェクトとして機能させたことにある。バウンダリー・オブジェクトとは、「異なるコミュニティやシステム間の境界(バウンダリー)に存在するモノや言葉、シンボルなどを意味し,コミュニティ同士をつなぐもの、あるいは新たにコミュニティを形成するものとして生み出されるもの」をいう。

社会的な課題をバウンダリー・オブジェクトとして、異なる目的を持つ組織が手を組むことで、新たな価値の創出やこれまでにない取り組みが可能となる。バウンダリー・オブジェクトは、複数の組織の関係を,単なるつながりから,新たな挑戦に対する連帯へと変化させるツールとなる。社会的課題からのアプローチはこのような仮説の実証的検証と言える。

だからこそ、プロジェクト・シャクティは、異なるステークホルダーが共有できる課題を発見し、彼らが相補的に機能するエコシステムを生みだした。そして、2000年に50人の女性を対象に始められた同プロジェクトは、4万5,000人の女性と10万の村の300万世帯を対象とする規模へと成長したのだ。私はそう思っている。