書籍
本書は、作業科学という新しい分野の魅力的な入門書である。ページ数はあとがきを含めて105ページと短い。だからこそ、読者は細かな隘路に陥ることなく、読み通すことができ、「作業とは何か」について考えることができる。 作業科学は、作業という現象につ…
戦争末期におきた一つの事件を題材にした中編。物語は、複数の人物の一人称による語りと三人称による記述とで構成される。視点の変化によって事件の「風景」が際立つ形式といえる。 冒頭は遠景から始まる。 八月、ひどく暑いさかりに、この西松原住宅に引越…
著者が、自身のブログとその運営について、これまでどのように考えてきたかを記した本。日々数万人の読者が訪れるブログの運営記録というよりも、ブログやブログを取り巻く状況について、著者の価値観と姿勢とが記述されている。読みやすい文章と一貫性のあ…
雲水としてベルリンを拠点に活動する著者による禅の入門書。著者の経験や実感をベースに書かれており、エッセイを読むように、禅の入り口に触れることができる。「禅とは何か?」という大上段なアプローチではなく、若い禅宗の僧侶の生き方そのものが、都会…
日常語の中から、88個の仏教由来の言葉について、元々の意味を踏まえながら書かれたエッセイ集。中央公論の8年にわたる連載として書かれたものなので、文章は肩肘をはらず、読みやすい。そしてユーモアに溢れている。 本書は2つの大きな驚きを与えてくれる。…
肌と肌とのふれあいを大切にするスウェーデン生まれの「タクティール」を、ハンドセラピーとして実際にすぐに使えるように、具体的に丁寧に解説している。 本書は、まず認知症に関する基礎知識の説明から始まり、触れることの意味、タクティールケアを具体的…
「ビジュアルシンキングを用いたプレゼンテーション」は、普通の社会人が身につけておく新しいリテラシーだ。本書はその基本を身につける方法をわかりやすく伝えている。 ビジュアル表現を使いながら情報を伝えるのには、何が必要なのか? そのための具体的…
本書は「私とは何か」という問いへのひとつの答えである。 著者は、分けられない首尾一貫した「本当の自分」というモデルは不完全だという。これまでの「個人」(individual)という概念を、大雑把で、硬直的で、実感から乖離しているという。そして、「人と…
ソニーを含めた「もの作り日本」の凋落とは対照的に、小倉昌男氏が1976年に始めた小口貨物の特急宅配システム「宅急便」は、人々の生活の利便性を劇的に変化させた。本書は、2005年に銀行業界からヤマト運輸に転じ、2011年にヤマトホールディングス社長に就任…
「淀長(淀川長治)さんみたいになりたい」。 著者は、巻末に掲載された大澤聡との対談の中で、書評のひとつの理想の姿としてそう語る。 著者にとって、書評は愛と尊敬なのだ。 だからこそ、著者は書評の意味について考え、そして時に辛口にもなる。読者はそ…
インフォグラフィックの魅力を知り、その活用の一歩を踏み出してもらいたいと著者はいう。著者はインフォグラフィックを、『これからの時代の新しい読み書きそろばん』、『誰にでも必要とされる新しいタイプのリテラシー』と捉えている。 その言葉通り、本書…
読者それぞれが、自分にとっての宗教はどう位置づけられるのか、やんわりと考えるきっかけになるような本。著者は、宗教的感性について、少しエッセイ的に、少し学問的に捉えながら、宗教というものを対象化していく。 「宗教とは○○であ~る」と肩肘をはらず、…
日本は海の中に沈んでしまった。生き残った日本人も国土を失い、世界中に散った。物語は25年後の日本人たちを描いている。 昭和48年に出版された「日本沈没」は、「第一部 完」という言葉で終わっている。当時、誰もが「その後の日本人は一体どうなるのだろう」…
喜嶋先生は静かな世界に生きている。 研究というものに携わったことがあるならば、誰しも一度は、喜嶋先生のように生きたいと願ったはずだ。この本はそんな人のためにある。喜嶋先生は研究者のイデアだ。 静けさとは無ではない。静かであることと豊かである…
上手いエッセイは人を魅了する。中年以降の季節とはそんなエッセイに似ている。 『「奥さん、サハラに行くんだって?」と当時他人に言われる度に、夫は、「砂漠に行くと神が見えるんだそうですよ。しかし砂漠に行かないと神が見えないというのは、不自由なこ…
副題に「世界一やさしい」「ガブッ!とわかる」とある言葉の通り、行動経済学についてわかりやすく書かれた入門書。高校生の子どもにも勧めたくなる。 まず、書籍としての導入が上手い。 ”はじめに”で、「なぜあなたはお金を貯められないのか?」「お金を貯…
本書は、2003年のベストセラーであり、その強烈なタイトルはその年の流行語大賞にもなった。 そして、タイトルで誤解されてしまう本というものは存在する。 たとえば、ニコラス・カーの「ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること」。本当…
「私の釣魚大全」「フィッシュ・オン」「オーパ」など、開高健が記した釣りにまつわる紀行と、その紀行に関わった人々への取材を通し、人間・開高健を生き生きと再構成して描き出した優れた評伝。 たとえ釣りにはまったく興味が無くても、この評伝を読み進め…
初期集合論を確立したカントル。カントルはなぜ「数学は自由である」と考えたのか。カントルの数学と、数学における概念との関係に焦点をあてながら、その意味が本書では記述されている。 著者は問う。あなたは樹の幹を描くときに輪郭から描くか? それは本…
現代における霊性とは? 「内田さんがつけたタイトルは呪いだよね、それに縛られてしまうから」と釈氏。呪いをかけた側とかけられた側がそれぞれ自由に、タイトルを軸に現代を語っている。 二人の立場はもちろん違う。現代や霊性に関する観点も思想も踏み込む…
日本語の副題は「書くことは、心の声に耳を澄ませることだから」。「作家になるため」の本ではなく、自分という「作家である」であるための本。 英文のタイトルは”The Right To Write”。”書く権利”あるいは”書くことは権利”と直訳すればいいのだろうか。 著…
本書では、人口減少社会がより豊かな様相への変化であるとして描かれている。 人口減少社会をポスト産業化時代としての定常型社会として位置づける視点が新鮮だ。長期的な視点にたち、よくある旧来型の視点には囚われていない。そして、20世紀の拡大・成長・…
会議やワークショップに活用できるグラフィックスが、具体的な実例とともに多数掲載されている。 最近ノートに絵的な要素が少し減っているような気がしたので、再読。 この本自体は、会議やワークショップをグラフィカルに描きながらファシリテーションして…
物語を構成する要素・機能をシステマティックに分析、物語を書く人、物語をさらに楽しみたい人のための書。 子どもの頃、戦闘機乗りの物語を読むのが好きだった。飛行機が生まれたばかりの頃の話は個人が輝く物語で溢れている。しかし、やがてその物語は変質…
Keep, Problem, Try(KPT)という3つの視点からの振り返り手法に関する実用書。 もしあなたの周辺でPDCA、PDCAと念仏のように唱えられていても、あまり気にしない方がよい。PDCAでは何も起きない。ものごとは行ってみてはじめてわかることがある。PDCAではな…
短編で構成された夏目漱石の小品。日常の様々な風景が描かれている。 空中に放り投げたボールが、そのまま落ちずに止まってしまったような奇妙な違和感に見舞われる。日常であるように見えて、それは日常風でしかない。 文章を使っての実験は可能だ。けれど…
社会学系の大学院や学部の学生を対象に書かれた論文の書き方の心得。 社会学系の論文を書くことに関し、前半はゼミの卒業生との対話として、後半はそれを整理した概論として、「研究の仕方」、「文章の書き方」としてまとめている。 好みもあるだろうが、後半の…
教祖になるためのマニュアルという体裁をとった文明批評書。 なにかに対して展開した批評が評価を受けるためには、客観性が必要となる。客観性を保つためには、対象となるものやことに対して、複数の視点と引いた視点が必要となる。 世界宗教の基本要素は、…
渋谷陽一による、スタジオジブリのプロデューサー・鈴木敏夫のインタビュアー。鈴木敏夫と鈴木敏夫を取り巻く人々が生き生きと描かれている。 「インタビューという行為はどこか聞き手がそらぞらしい」という先入観を気持ちよく破壊してくれる。著者は鈴木敏…
自ら死を選ぶ権利―オランダ安楽死のすべて 副題は「オランダ安楽死のすべて」。日本のテレビ局の安楽死取材をコーディネートしたことをきっかけに、取材に同席した著者がオランダにおける安楽死の議論をドキュメンタリータッチで伝えている。 本書がとても丁…