okadamktの日記

That's what we call a tactical retreat.

読書論についての考察。しかし真の犯人は著者: ピエール・バイヤール 『読んでいない本について堂々と語る方法』

ピエール・バイヤール「読んでいない本について堂々と語る方法」。その本について語るにはその本は読んでいない方がよい。本を読み、語ることについての意味の考察。

しばらく前に「アブダクション―仮説と発見の論理」という本を友人の原田くんに薦められた。「岡田さんはきっとアブダクションという考え方に興味があると思うんですよね。この本、どうです?」と。

アブダクションは演繹とも帰納とも異なる仮説検証型の推論の一種で、科学的な発見に関するプロセスともいえる。読みにくい本で読み終わるのに3ヶ月ほどかかってしまった。しかしなるほど面白い本だった。

本の感想とお礼を彼に言ったところ、「そうでしたか。私はアマゾンの書評をみただけなんです。よかったですね。」と返された。えっ? 悔しさの10倍返しとはこういうときの気持ちに使うものだ。私は以来そう思っている。

本書「読んでいない本について堂々と語る方法」は興味深い本だ。読むという行為の意味や、その本について語ることの意味についての考察が述べられている。タイトルにだまされてはいけない。いわゆるHow To本ではない。

しかし、この本の本当の面白さは別のところにある。著者の論理を丁寧に追っていってほしい。過度な一般化や微妙な論理の飛躍、すり替えがいたるところにちりばめられていることに気づくだろう。

ある俳句が凡庸であるかどうかは、使われる言葉を別の季節や言葉に置き換えたときにも成立してしまうかどうか、語彙の非可換性がどれほど高いかに依存する。本書は、巧妙にそして絶妙に、論理的に可換な一般論を、表層から隠蔽しながら巧みに展開している。

この本の面白さは推理小説のそれである。犯人は著者であり、探偵は読者である。一流のエンターテーメントが楽しめる。

そして、極めてお得なことに、その飛躍のロジックはとても模倣可能性が高く、応用しやすい。だから、今日からは「読んでいない本」について堂々と語ろう。


参考)

(2013年11月10日, mixi 改)