okadamktの日記

That's what we call a tactical retreat.

問いをより深めるために:ウォーレン・バーガー『Q思考 ― シンプルな問いで本質をつかむ思考法』

「アイディアはつねに「疑問」から生まれる」。では、その問う力について真剣に考えるとはどういうことなのか。本書は著者自身のそんな問いから生まれたものといってもよいだろう。問うという行為の必要性、価値、よい問いの例、問いを妨げるもの、よい問いに近づくための工夫。本書は、問いにまつわる著者の思考の軌跡と考えることができる。

いわゆるHow-to本とは性格が少し異なる。よい問いをつくる手順がレシピのように書かれた本ではない。本書の原題は”A More Beautiful Question”。著者は「美しい問い」をこう定義する。

私たちが物事を受け止める、あるいは考える方法変えるきっかけとなる野心的だが実践的な質問のこと。(p.13)

本書には、「美しい問い」を発見するために著者が収集したさまざまな知恵がそこかしこに書かれている。それらを実際に試し問い続けることこそ、「美しい問い」へ読者が到達するための最善の道だ。本書は、読者が自らの「美しい問い」を発見するための最初の一歩を踏み出すためのガイドブックといえる。

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本書には、著者のジャーナリストとしての洞察に満ちたフィルターを通して編纂された知恵がちりばめられてられている。その知恵は辞書のようには配置されない。森の中で新しい発見をしながら散策するように描かれている。

著者が勧める知恵は即物的というよりは内省的だ。たとえば著者は「なぜ?」という問いのために必要なこととして下記をあげる。

  • 一歩後ろに下がる
  • 他の人が何を見失っているのかに気をつける
  • 前提条件(自分たち自身を含む)を疑ってかかる。
  • 前後関係をよく見極めながら、つまり「文脈的探求」を通じて、足下の条件や問題の理解を深める。
  • いま抱いている疑問を疑う。
  • 特定の疑問や質問については自分が主導権を握る。(p.134)

そして、そのための工夫として、下記のような実践を提案する。

  • 自分がよく知っているものを見ているときに、あえてそれを新鮮に感じるような「ヴジャデ」(既視感:デジャブの逆)のトレーニングをする(p.149)
  • トヨタの方法「なぜを5回繰り返す」では、問いを「開いたり閉じたり」して質問のレベルを上げる(p.171)
  • 「もし~だったら?」という問いは、極端な「仮定」で現実をひっくり返す(p.202)
  • 「どうすれば?」という問いは、実践によって失敗をしダメージを受けながら「少しずつ」進む(p.221)
  • 「ブレイン・ストーミング」の代わりに疑問や質問を生み出す「クセスチョン・ストーミング(Qストーミング)」を行う(p.270)
  • Howに躊躇しがちな人々に対して、「どうすればできそうか?(How might we?)」と問う(p.274) 

 著者が求めているのは哲学的で答えのない質問ではない。著者が本書で対象としたいのは、行動に結びつく疑問、目に見える形で確認できる結果や変化に結びつく質問だ。著者は理論物理学者のエドワード・ウィットテンの言葉を引用する。

私はいつも、回答しがいがあるほどに難しく(そして面白く)、実際に答えられる程度にはやさしい質問を探している(p.14)

示される工夫が内省的なトーンを持っているのは、著者が問いという行為を世界を構築する手段だと考えているからだろう。だからこそ、著者は、ポジティブな問いを推奨し、下記のような言葉を引用をする。

組織は自らが発する問いに引き寄せられる (p.44)
私たちはみな、自分たちの問いかけがつくりだす世界に生きているのだ(p.45) 

 美しい問いが世界を創造する。それが著者からのメッセージなのだ。