okadamktの日記

That's what we call a tactical retreat.

地域からの政治を考えるきっかけに: 小田りえ子 『ここが変だよ地方議員』

普通の企業人から川崎の市議会議員に転身した著者は、転身組だからこその違和感をブログで4コマ漫画として描いてきた。本書はそのブログを整理して書籍化したものである。地方議会や地方行政を告発するためのものではなく、ごく普通の人からの目線で、「もっ…

人に対する共感に満ちた洞察: 平田オリザ 『わかりあえないことから』

「コミュニケーションは難しいものだ」と感じている人は世の中には多い。しかし「わかりあえないことから出発する」という立場で、コミュニケーションについて丁寧に考えを深めていく人は少ない。 本書は、「わかりあうこと」を重視する風潮へのアンチテーゼ…

明るい勇気を与えてくれる: 山田スイッチ 『しあわせスイッチ』

「明るい青春小説」というジャンルがあるならば、この本はその筆頭だろう。描かれている「青春」は、どこか微笑ましく、そして確実に空回りしている。でも、その空回りが、なんだか五月の空の鯉のぼり、竿の先の風車のように元気にからからと回り、わけのわ…

隣接する異なる世界の物語: ショーン・タン 『アライバル』

一人の男の旅の物語。物語は言葉では語られていない。物語はすべて、イラストというカットの積み重ねで描かれている。愛情、不安、別れ、困惑、出会い、希望。登場人物たちの繊細な心の揺れ動きが、文字が意味を失った世界で饒舌に語られている。 モノトーン…

作業科学に魅せられる書: 吉川ひろみ 『「作業」って何だろう―作業科学入門』

本書は、作業科学という新しい分野の魅力的な入門書である。ページ数はあとがきを含めて105ページと短い。だからこそ、読者は細かな隘路に陥ることなく、読み通すことができ、「作業とは何か」について考えることができる。 作業科学は、作業という現象につ…

主観の麻痺について: 遠藤周作 『海と毒薬』

戦争末期におきた一つの事件を題材にした中編。物語は、複数の人物の一人称による語りと三人称による記述とで構成される。視点の変化によって事件の「風景」が際立つ形式といえる。 冒頭は遠景から始まる。 八月、ひどく暑いさかりに、この西松原住宅に引越…

日記的であってない不思議な本: ちきりん 『「Chikirinの日記」の育て方』

著者が、自身のブログとその運営について、これまでどのように考えてきたかを記した本。日々数万人の読者が訪れるブログの運営記録というよりも、ブログやブログを取り巻く状況について、著者の価値観と姿勢とが記述されている。読みやすい文章と一貫性のあ…

エッセイを読むように禅の入り口に触れる: 星覚 『坐ればわかる 大安心の禅入門』

雲水としてベルリンを拠点に活動する著者による禅の入門書。著者の経験や実感をベースに書かれており、エッセイを読むように、禅の入り口に触れることができる。「禅とは何か?」という大上段なアプローチではなく、若い禅宗の僧侶の生き方そのものが、都会…

言葉の変化に対する驚き: 玄侑宗久 『さすらいの仏教語』

日常語の中から、88個の仏教由来の言葉について、元々の意味を踏まえながら書かれたエッセイ集。中央公論の8年にわたる連載として書かれたものなので、文章は肩肘をはらず、読みやすい。そしてユーモアに溢れている。 本書は2つの大きな驚きを与えてくれる。…

ケアの価値感にふれる: 鈴木みずえ監修 『認知症の介護に役立つハンドセラピー』

肌と肌とのふれあいを大切にするスウェーデン生まれの「タクティール」を、ハンドセラピーとして実際にすぐに使えるように、具体的に丁寧に解説している。 本書は、まず認知症に関する基礎知識の説明から始まり、触れることの意味、タクティールケアを具体的…

新しいリテラシー: 櫻田潤 『ビジュアルで差がつく「響く」プレゼン資料作成術』

「ビジュアルシンキングを用いたプレゼンテーション」は、普通の社会人が身につけておく新しいリテラシーだ。本書はその基本を身につける方法をわかりやすく伝えている。 ビジュアル表現を使いながら情報を伝えるのには、何が必要なのか? そのための具体的…

「個人」から「分人」へ: 平野啓一郎 『私とは何か』

本書は「私とは何か」という問いへのひとつの答えである。 著者は、分けられない首尾一貫した「本当の自分」というモデルは不完全だという。これまでの「個人」(individual)という概念を、大雑把で、硬直的で、実感から乖離しているという。そして、「人と…

イノベーションにおける物語の書: 木川眞 『未来の市場を創り出す』

ソニーを含めた「もの作り日本」の凋落とは対照的に、小倉昌男氏が1976年に始めた小口貨物の特急宅配システム「宅急便」は、人々の生活の利便性を劇的に変化させた。本書は、2005年に銀行業界からヤマト運輸に転じ、2011年にヤマトホールディングス社長に就任…

愛に満ちた書評論: 豊崎由美 『ニッポンの書評』

「淀長(淀川長治)さんみたいになりたい」。 著者は、巻末に掲載された大澤聡との対談の中で、書評のひとつの理想の姿としてそう語る。 著者にとって、書評は愛と尊敬なのだ。 だからこそ、著者は書評の意味について考え、そして時に辛口にもなる。読者はそ…

誰にでも必要な、仕事に役立つリテラシー: 櫻田潤 『たのしいインフォグラフィック入門』

インフォグラフィックの魅力を知り、その活用の一歩を踏み出してもらいたいと著者はいう。著者はインフォグラフィックを、『これからの時代の新しい読み書きそろばん』、『誰にでも必要とされる新しいタイプのリテラシー』と捉えている。 その言葉通り、本書…

心が柔軟になる読むクスリ: 釈徹宗 『ゼロからの宗教の授業』

読者それぞれが、自分にとっての宗教はどう位置づけられるのか、やんわりと考えるきっかけになるような本。著者は、宗教的感性について、少しエッセイ的に、少し学問的に捉えながら、宗教というものを対象化していく。 「宗教とは○○であ~る」と肩肘をはらず、…

郷愁ではない創造すべき未来が描かれている: 小松左京/谷甲州 『日本沈没 第二部』

日本は海の中に沈んでしまった。生き残った日本人も国土を失い、世界中に散った。物語は25年後の日本人たちを描いている。 昭和48年に出版された「日本沈没」は、「第一部 完」という言葉で終わっている。当時、誰もが「その後の日本人は一体どうなるのだろう」…

静けさとは無ではない: 森博嗣 『喜嶋先生の静かな世界』

喜嶋先生は静かな世界に生きている。 研究というものに携わったことがあるならば、誰しも一度は、喜嶋先生のように生きたいと願ったはずだ。この本はそんな人のためにある。喜嶋先生は研究者のイデアだ。 静けさとは無ではない。静かであることと豊かである…

風神雷神のように: 曾野綾子 『中年以降』

上手いエッセイは人を魅了する。中年以降の季節とはそんなエッセイに似ている。 『「奥さん、サハラに行くんだって?」と当時他人に言われる度に、夫は、「砂漠に行くと神が見えるんだそうですよ。しかし砂漠に行かないと神が見えないというのは、不自由なこ…

フレームを外して世界をみるために: 山岡道男/淺野忠克 『行動経済学の教室』

副題に「世界一やさしい」「ガブッ!とわかる」とある言葉の通り、行動経済学についてわかりやすく書かれた入門書。高校生の子どもにも勧めたくなる。 まず、書籍としての導入が上手い。 ”はじめに”で、「なぜあなたはお金を貯められないのか?」「お金を貯…

脳化社会は改めて振り返る価値がある: 養老孟司 『バカの壁』

本書は、2003年のベストセラーであり、その強烈なタイトルはその年の流行語大賞にもなった。 そして、タイトルで誤解されてしまう本というものは存在する。 たとえば、ニコラス・カーの「ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること」。本当…

月日は流れ、わたしは残る、片雲の風に誘われる: 滝田誠一郎 『長靴を履いた開高健』

「私の釣魚大全」「フィッシュ・オン」「オーパ」など、開高健が記した釣りにまつわる紀行と、その紀行に関わった人々への取材を通し、人間・開高健を生き生きと再構成して描き出した優れた評伝。 たとえ釣りにはまったく興味が無くても、この評伝を読み進め…

自由であることの希求: 志賀浩二 『数学という学問 III: 概念を探る』

初期集合論を確立したカントル。カントルはなぜ「数学は自由である」と考えたのか。カントルの数学と、数学における概念との関係に焦点をあてながら、その意味が本書では記述されている。 著者は問う。あなたは樹の幹を描くときに輪郭から描くか? それは本…

読者もまた呪いの内に取り込まれる: 内田樹/釈徹宗 『現代霊性論』

現代における霊性とは? 「内田さんがつけたタイトルは呪いだよね、それに縛られてしまうから」と釈氏。呪いをかけた側とかけられた側がそれぞれ自由に、タイトルを軸に現代を語っている。 二人の立場はもちろん違う。現代や霊性に関する観点も思想も踏み込む…

自分の声に耳を傾けたくなる優しい本: ジュリア・キャメロン 『あなたも作家になろう―書くことは、心の声に耳を澄ませることだから』

日本語の副題は「書くことは、心の声に耳を澄ませることだから」。「作家になるため」の本ではなく、自分という「作家である」であるための本。 英文のタイトルは”The Right To Write”。”書く権利”あるいは”書くことは権利”と直訳すればいいのだろうか。 著…

21世紀の変化の様相が描き出される: 広井良典 『人口減少社会という希望 コミュニティ経済の生成と地球倫理』

本書では、人口減少社会がより豊かな様相への変化であるとして描かれている。 人口減少社会をポスト産業化時代としての定常型社会として位置づける視点が新鮮だ。長期的な視点にたち、よくある旧来型の視点には囚われていない。そして、20世紀の拡大・成長・…

ノートにも最適: 堀公俊/加藤彰 『ファシリテーション・グラフィック―議論を「見える化」する技法』

会議やワークショップに活用できるグラフィックスが、具体的な実例とともに多数掲載されている。 最近ノートに絵的な要素が少し減っているような気がしたので、再読。 この本自体は、会議やワークショップをグラフィカルに描きながらファシリテーションして…

物語を異なる視点で眺めるようになる: クリストファー・ボグラー/デイビッド・マッケナ 『物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』

物語を構成する要素・機能をシステマティックに分析、物語を書く人、物語をさらに楽しみたい人のための書。 子どもの頃、戦闘機乗りの物語を読むのが好きだった。飛行機が生まれたばかりの頃の話は個人が輝く物語で溢れている。しかし、やがてその物語は変質…

多摩川を歩く(III) 2015.05.03

多摩川遡行3日目。多摩川沿いを是政橋から羽村取水堰までの22 kmを歩く。 是政橋に近いJR南多摩駅からのスタート、是政橋より多摩川上流を望む。河口よりおよそ32km地点。 多摩川左岸を進み、まもなく南武線多摩川橋梁。是政橋から昭島の間はちょっと土手側…

多摩川を歩く(II) 2015.04.30

多摩川遡行2日目。二子橋から是昌橋までの14 kmを歩く。右岸河口より約18km地点にあたる二子玉川からのスタート。 多摩川左岸、兵庫島。新田義貞の子、義興か足利基氏を討ち、新田家再興を目指していた途上、敵の策略で上流の稲城矢口渡しで討たれてしまう。…